キャッサバ(根と葉) Bandung_West Java, 2017 |
キャッサバを1キロ食べた後でも、米を食べてなきゃここの人たちは「今日はまだ食事してない」って言うのさ。
とは、仲のいい在バンドンの華人の談。
インドネシアの人たちの、お米以外は「食事」と見なさない姿勢を指しています。
(本来はお米が主食じゃない地域もあるんですけどね)
キャッサバは食べるとかなりお腹にどっしり来るのですが、そこをふまえてのジョークです。
キャッサバはインドネシア語でシンコン(Singkong)。
南米原産で、熱帯地方では広く栽培されている植物で、主に食されるのは根の部分。
炭水化物枠でみると、米、トウモロコシに次ぐ3番目の位置にいる、重要なエネルギー源となる作物です。
インドネシアは世界3位の生産量となっています。
挿し木で簡単に増え、乾燥に強くて成長も早い。そしてお腹を満たす。素晴らしいですね。
根っこをそのまま食べる以外に、でんぷん質をとって加工もします。
タピオカパールはこのでんぷん質を球状に成形したもの。
あの美味しいポン・デ・ケージョのモッチリ感も、キャッサバのでんぷん由来です。
キャッサバ(根) Bandung_West Java, 2017 |
ただ、このキャッサバ、有毒物質を含んでいるのだそうです。それもシアン化合物。
なので、加熱や水洗い等で毒抜きをしてから、もしくは毒のある部位を除いてから、食べることになります。
毒。
って、インドネシアの人たち、意識しているんでしょうかね。あんまりそういう気配がありません。
ざっと調べてみたところ、基本的にインドネシアで栽培されているのは毒性の低い品種らしく、
「食べて甘かったら大丈夫。苦みを感じたら毒のある品種なので食べるのをやめましょう」
と書かれているのも目にしました(食べちゃってるじゃん…とも思うけど)。
なのでインドネシアで食す限りにおいては、毒性はそれほど気にするものではないのかもしれませんね。
※追記
うちのお手伝いさん曰く、この界隈で売られているキャッサバには言われるような毒性はないそうです。
加熱で毒抜き等書きましたが、
ここでは体調悪い子供に擦ったキャッサバ(生)の絞り汁に蜂蜜を加えたものを飲ませることもあるのだそう。
毒性のあるキャッサバ(苦い)もあるはあるけど、品種が異なり最近はもうほとんど売られておらず、
食べるのにも、水に晒したり天日干しをしたりした後に粉末にした後にお菓子等に加工するのだそうです。
毒性のあるキャッサバを食べたら、確かに酔っぱらったようなくらくらした感じはある、と言います。
シアン化合物、くらくら程度で済む物なのかは疑問ですが…汗
とりあえず「キャッサバで人が死んだって話しは聞いたことないよ」とのことです。
そしてキャッサバ、芋類にしては珍しく、収穫してしまってからあまり日持ちがしません。
だんだん黒くなって味も落ちます。
なので、採ってその日に調理してしまうのが理想。買ってきた場合は、なおさらその日のうちに。
(って言いつつ、つい翌日になってしまったりするのですけどね)
あ「皮を剥いて数時間おいたときに青く変色するのは、毒性の高いキャッサバ」というのも書かれてましたね。
判断の参考までに、という感じでしょうか。
キャッサバの強さをしみじみ感じたのは、南東スラウェシのワカトビ諸島に行った時です。
青:ワカトビ諸島 |
小さな島々が並ぶワカトビ諸島。土壌は石灰質で農耕にはむかず、稲の栽培も行われていません。
そんな島の連なりの一番外側、端っこにあるのがビノンコ島。
ビノンコには太陽がふたつある、と他の島の人たちが言うほどに陽射しがきつく、そして、乾燥した島でした。
他の島々は、決して厚くはないものの堆積した土があり、ちょっとした木立や繁みもある緑の島ですが、
ビノンコは堆積した土が非常に薄く、島の南端近くを除いて、ほぼ石灰石がむき出しの状態。
そんなカラカラな島の主要作物がキャッサバだったのです。
キャッサバ畑 Binongko_Southeast Sulawesi, 2015 |
ジャワで見慣れたキャッサバ畑と言えば、しっかり葉の繁った青々としたものなのですが、
ビノンコのキャッサバ畑はひょろひょろ。そして、ごつごつとむき出しの岩の上。
その岩の小さなくぼみに挿し木をして、日よけと保水目的で根元付近を枯れ草などで覆います。
キャッサバ畑 Binongko_Southeast Sulawesi, 2015 |
かりっかりの空気、雨は一年のうち数ヶ月しか降りません。
そんな環境の中でも、このキャッサバたちは育つんです。強いなあ。
例えばジャワのような、肥沃な土地では数ヶ月で収穫できるところ、ビノンコでは1年かかると言います。
地道に気長に、ビノンコのひとたちはせっせとキャッサバを植え、
そして収穫しては、週に3回ある隣の島の市まで船に乗って売りに行きます。
ビノンコに比べればずっと緑が多い他のワカトビの島々では、
それでもこのビノンコのキャッサバ畑ほどに広々と作付けされた土地を見ることはありませんでした。
キャッサバ畑 Binongko_Southeast Sulawesi, 2015 |
この辺りでは、キャッサバはシンコンではなくウビ・カユ(Ubi Kayu)と呼ばれることが多いようです。
ウビは芋、カユは木を意味します。
ジャワで「ウビ」と言うとサツマイモを指すことが多いのですが、ワカトビでウビと言えば、キャッサバでした。
キャッサバ畑 Binongko_Southeast Sulawesi, 2015 |
そんなビノンコ島を含め、ワカトビ諸島も今では主食は米(島外から輸入します)ですが、
かつて、この地域で主食とされていたものも、キャッサバでした。
カスアミと呼ばれる、この白いかたまりが、それ。
カスアミ Binongko_Southeast Sulawesi, 2015 |
削ったキャッサバの水分をぎゅーーーっと絞り、円錐型の型におさめて蒸したものです。
蒸しパンのような見た目ですが、もっとずっと重たくてしっかり食べ応えがあります。
カスアミ Binongko_Southeast Sulawesi, 2015 |
立ち位置は白米などと同じなので、味付けは特にされていません。
おかず、もしくは汁物と一緒に混ぜてちょっとずつ食べるのですが、これ、海魚の味によく合います。
今では主食は白ご飯に移行してはいますが、ご飯より日持ちがするという理由で、
漁などで長く海上に出る時には、今もカスアミを持っていくことがあるのだと言います。
一般的にこの地域のカスアミは円錐型なのですが、
同じワカトビ諸島のワンチ島にある、バジャウ人集落でみたもの中には円盤型のカスアミも。
カスアミ Wanci_Southeast Sulawesi, 2015 |
バジャウ人は、フィリピン、マレーシア、インドネシアあたりに広く暮らす海洋民で、
かつては船を住処として自由に海を渡り、狩猟採集生活を行っていたことで知られる民族です。
現在は各地で定住化が進み、このワカトビ諸島はビノンコを除く島々にバジャウ人の海上集落が見られます。
ワンチはその中でも最大級の集落。
このカスアミを売っていたおばちゃんに話しを聞くと、
バジャウのカスアミは円盤型で、ココナッツも入っているのが特徴なのだそうです。
で、思い出したのですが、マレーシアのボルネオ島センポルナのバジャウ人の伝統食に、
このカスアミによく似たものがあるのを聞いたことがあったのでした。
すりおろしたキャッサバの水気を切って細い筒状にして蒸したもの。おかずと一緒に食べるのも同じ。
センポルナではプトゥ/Putuと呼ばれているのだそうです。
センポルナのバジャウとワカトビあたりのバジャウは、同じ民族でも少し違うとも聞いたことがあるのですが、
こういう類似性があると、なんとなくわくわくします。
ちなみにプトゥというと、蒸し菓子としてのクエ・プトゥ(Kue Putu)が思い浮かびます。
東南アジア島嶼部によく見られるこのお菓子は、米粉を竹などの筒を使って円柱形に蒸したもの。
中に椰子砂糖を入れて、食べる時にココナッツをまぶすのが一般的です。
この米粉をキャッサバにかえたのが、センポルナのプトゥのそもそもなのかもしれないですね。
さらにちなみに、この米粉のプトゥはスリランカやインド発祥の食べ物なのだそうです。
脱線しすぎました。キャッサバに話しを戻しましょう。
その食べ方。
まず有毒物質を含むといわれる皮を剥きます。
ナイフを縦に深めに入れて歯を倒し、外側の皮の層をぺりぺりとはがします。
キャッサバ Bandung_West Java, 2017 |
結構楽しいです、これ。
で、この白い内側の方を調理するわけなのですが、
西ジャワ地方ではこのぺりぺりはがした外皮も食べるのだそうです。
キャッサバ Bandung_West Java, 2017 |
一番外側の茶色の肌だけははがし、この白い部分をじっくり茹でて柔らかくして、唐辛子などで炒めるのだそう。
わたしはまだ機会がなくて食べていないのですが。
さて、では、剥いた内側の部分の食べ方についていくつか。
インドネシアで一般的なのは、クリピック・シンコン(Keripik Singkong)と呼ばれるチップス。
クリピック・シンコン Bandung_West Java, 2017 |
ポテトチップスよりも歯ごたえがあって、パリパリパリパリと止まらなくなる危険な食べ物です。
西スマトラのパダン辺りは、このクリピック・シンコンに、
バラドと呼ばれる甘くて辛いタレを絡めたものが名物だったりします。
クリピック・シンコン・バラド Bukittinggi_West Sumatra, 2016 |
パリパリで辛くってでもちょと甘い。やっぱりこれも、止まらない。危険な食べ物です(笑)。
そして、シンコン・ゴレン(Singkong Goreng)。揚げキャッサバです。
シンコン・ゴレン Bandung_West Java, 2017 |
あらかじめ蒸すか茹でるかして火を通しておいたキャッサバを塩水(ニンニクも入れると美味しい)に浸け、
その後、外側がカリカリになるまで油で揚げたもの。カリカリほくほくが危険な…(以下略)。
ちょっとおしゃれなカフェ系シンコン・ゴレンも。チーズソースがかかっています。
シンコン・ゴレン Jakarta, 2016 |
他に、甘いお菓子のように加工されたキャッサバもありますし、先日のタペもキャッサバを加工品になります。
また、根の部分だけでなく葉も、インドネシア各地で野菜としてよく食されています。
キャッサバ(葉) Bandung_West Java, 2017 |
茹でて和え物にしたり、汁物に入っていたりもしますが、一番シンプルなのはおひたし。
とはいえ、たとえばほうれん草のようにさっと茹でて…では柔らかくならないので加熱時間は十分にとります。
茹で上がりはアクで色が悪くなりがちですが、重曹を適量いれてから茹でるときれいな緑に仕上がります。
キャッサバ(根) Bandung_West Java, 2017 |
インドネシア各地旅行していて、割とどこででも出会いやすいのがキャッサバ。
カスアミのように主食クラスというのはまだ他では出会っていませんが、
お茶請けのように甘いお菓子になって出てきたり、軽食として揚げられてでてきたり。
またどこかでキャッサバに出会ったら、お知らせしますね。