ミー・オンクロック Wonosobo_Central Java, 2017 |
先日、中部ジャワに旅行に行き、その道中で美味しい麺を食べたので、今回は麺のお話を。
といっても、大風呂敷感が拭えない大きなテーマですね「麺」。
なので、とりあえず今回は、小麦粉を使った「麺」について、ざっくりさらっと。
インドネシアで麺はミー/Mie (もしくはMi)と言います。語源は中国のMien。
インドネシア料理でダントツの知名度を誇るナシ・ゴレンとミー・ゴレンの「ミー」はこの麺を意味する「ミー」。
麺の歴史は今更ここでわたしが述べるまでもないことなので割愛しますが、
中国発祥のこの食べ物、時に形を変えて世界中で愛されているわけですが、インドネシアも例外ではありません。
伝わってきた時期に関してははっきり分からないのですが、
1870年前後に中国南部から大量の移民がジャワに入ってきており、
そのくらいの頃の移民たちが持ち込んだ各種料理の中にあったのではないかなと思ったりもします。
ミー・アヤム Bandung_West Java, 2017 |
麺の種類も、この小麦粉麺の他、米麺やビーフン、春雨などもありますし、
どのタイプの麺のどの調理法が最初に伝わり、そして伝搬していったのかはわかりませんが、
ここではまず、小麦粉麺のバクミー/Bakmiから初めてみます。
バクミーのバク/Bakは福建語で「肉」。本来は豚肉を意味します。
バクミーとは、油と調味料を絡ませた麺にトッピングとして肉を乗せ、別途スープを添えたもの。
で、本来の豚肉使用のバクミーの場合は、豚脂が使われるわけです。
そこで思い出されるのが、北スマトラのメダンに行くと必ず食べるこの麺。
バクミー・ケッ Medan_North Sumatra, 2015 |
バクミー・ケッ/Bakmi Khek、つまり客家麺。
脂を絡めた麺に刻んだ茹で豚と、カリカリの脂カス(豚脂をとった後に残る部分)が乗った麺です。
豚出汁に揚げニンニクを効かせた、澄んだスープが別途つくこの麺、
もうちょっとこうやって書いてる時点で辛いくらい、美味しいです。
バクミー・ケッ(店内) Medan_North Sumatra, 2015 |
簡潔な中華料理店が並ぶ路地で、これまた簡潔に数種類の麺だけを売っているお店なのですが、
往々にしてコシがない麺が基本のインドネシアにあって、比較的しっかりした麺なのも嬉しい。
ちなみに、この手の汁別麺の汁をどうするのか問題。
以前は、わたし、ざばっと麺に汁をかけて食べていたのですが、今は断然「別々に食べる」派です。
麺がくっついてしまっている場合のみ、スプーンに1〜2杯のスープを足しますが、それだけ。
全部かけてしまうと、なんか伸びてしまう気がするのです。コシがない麺の場合はなおさら。
で、このタイプのバクミーが、インドネシアに伝わってきた原型ではあるのでしょうが、
インドネシア、特にジャワは既にイスラム教が浸透していたわけですから、当然、豚はタブー。
そこでその豚を一般に食べられている鶏肉に置き換えたのが、バクミー・アヤム/Bakmi Ayamになります。
バクミー・アヤム Jakarta_2016 |
汁別油麺、鶏バージョン。
ちょっと甘めの味付けの鶏肉と青菜。使っている油はニンニクやシャロットなどで香り付けしてあります。
汁は別添え。バソ/Bakso(Baso)が入っているものも多いです。
で、このタイプにはバリエーションがあり、
バクミー・アヤム(ジャムール) Jakarta_2016 |
こちらは、バクミー・アヤム・ジャムール/Bakmi Ayam Jamur。
ジャムールはキノコです。フクロダケが多いんです、なぜか。
バクミー・アヤム(パンシット、バソ) Jakarta_2016 |
こちらは、バクミー・アヤム・パンシット・バソ/Bakmi Ayam Pangsit Baso。
パンシットはワンタン(ここでは揚げ)にバソ(肉団子)を加えた、盛りだくさんバージョン。
これは、麺にもしっかり味がついているタイプですね。
バクミー・ベベッ Bandung_West Java, 2016 |
一方こちらは、鶏肉がアヒル(ベベッ/Bebek)になったもの。
汁別麺はバクミーですが、単なるミー・アヤムというのもあるのです。鶏麺ですね。
そうすると、汁別は必須ではなくなります。
なので、恐らく、バクミー・アヤム=汁別、ミー・アヤム=汁有りということになるのかと思うのですが、
当然のことながらその辺の境界線は曖昧で、
ミー・アヤムを注文しても、↑のような汁別で出て来る場合も多々あります。
汁有りミー・アヤム。
ミー・アヤム Bandung_West Java, 2017 |
ミー・アヤムのスープは、バクミーの澄んだスープと違ってこっくりした茶色の場合が多いですね。
(もちろん、お店ごとに違いはあるのですが)
この茶色はケチャップ・マニスの色です。つまり、若干甘めのスープになります。
また、バクミー・アヤムの亜種(?)でヤミン/Yaminというのがあります。
これは、バンドンをはじめとした西ジャワ地方で割とよく食べられている様子。
ヤミン・アシン Bandung_West Java, 2016 |
汁別鶏油麺。この写真のはヤミン・アシン/Yamin Asinと言われる塩(アシン=塩、塩っぱい)味のもの。
これとは、別でヤミン・マニス/Yamin Manisというものもあり、
そちらは麺にケチャップ・マニスをベースにした味がついています。
マニスに対してアシンと言っている感じもあり、なのでアシンは塩というより旨味系と言えるかもしれません。
わたしは、アシン派です。くどくないので、うっかりおかわりしてしまいそうな美味しさ。
バクミーとヤミンの違いは、鶏肉。
バクミーの鶏肉は細切りでジューシーなお肉なのに対し、ヤミンはそぼろ状の乾いたものなのです。
西ジャワのヤミンの話しになった流れで、ご当地麺をいくつかご紹介します。
まず、同じ西ジャワのバンドン名物、ミー・コチョック/Mie Kocok。
ミー・コチョック Bandung_West Java, 2016 |
バクミーやミー・アヤムより若干幅広の麺を使ったこちらは、牛スジベースのスープが特徴。
コクがあるスープに、パッと散らしたセロリの香りがちょうどいいバランス。
柔らかいスジが美味しいこのミー、食べる時にケチャップ・マニスをたっぷりかける人が多いんです。
(かくも愛されるケチャップ・マニス)
コチョックとはインドネシア語で「混ぜる」という意味。
麺を茹でる際に、器具の中で混ぜるその様を指してのネーミングなのだそうです。
そして、やはりバンドンに有名店が多いのがロー・ミー/Lo Mie。
ローミー Bandung_West Java, 2016 |
こちらもやはり、若干幅広な麺で、あんかけスープになります。
出汁に海鮮を使っているところが多いようで、旨味濃厚。味付けは、甘み寄りになります。
ぷりぷりのバソとモヤシなどの野菜、揚げシャロットのトッピングに、たっぷり胡椒を振っていただきます。
更にもう一つ西ジャワから。ボゴール名物の、ソト・ミー/Soto Mie。
ソト・ミー Jakarta_2017 |
これはちょっと微妙な立ち位置で、名前の通りソト(スープ)枠なのです。
だから、ごはんがついて来る。
でも、スープの具として堂々と麺が入っているのです。炭水化物×炭水化物。
そして、ご当地麺と言えば、外せないのがこちら。ミー・アチェ/Mie Aceh。
ミー・アチェ Medan_North Sumatra, 2015 |
スマトラ島北端のアチェの名物麺。
アチェに行ってホテルの人に「ミー・アチェが食べたいのです!」と言った時、
「ミー・アチェかどうかは知らないけど、ミーの屋台ならそこに出てるよ」と言われて、
とても美味しいミー・アチェにありついたのもいい思い出。
(アチェにいたら、わざわざミー・アチェと呼ぶ必要はないんですよね…笑)。
写真はメダンにある有名店で食べた時のもの。
色かぶりしてて美味しそうに見えないのが残念ですが、この店もメダンに行ったら必ず寄るお気に入りです。
ミー・アチェはゴレン/Goreng(炒め)とクア/Kuah(汁)がありますが、わたしはいつもクアの方。
汁と言っても、多少汁気があるな、という程度でいわゆる汁麺とは異なる感じです。
(↑の写真もクアなのです)
ミー・アチェの特徴は、まず、カレー風の濃厚でスパイシーな味付け。これはジャワにない味です。
そして、トッピングは牛やヤギ肉、もしくはシーフード。
わたしは断然シーフード派です。豪快に乗ってるカニにかぶりつくのがミー・アチェの醍醐味。
そして、バランサーとしてのアチャール/Acar(キュウリなどのピクルス)がいい仕事をしてくれます。
カレー風であったり、アチャールが添えてあったりする辺り、インドからの影響が見られますね。
麺は中国から、牛やヤギを使う辺りは、イスラムの流れ、シーフードは海辺近い立地ゆえ、と考えると、
このミー・アチェというのはとても、
インドネシア最西端で、かつてインドとの交易港でもあったイスラム王国の土地アチェらしい食べ物ですね。
続いて、ミー・ジャワ/Mie Jawa。
バクミー・ジャワと言われることもあるこのご当地麺は、中部ジャワのジョグジャカルタが中心。
ミー・ジャワ(クア) Jogjakarta_Central Java, 2017 |
ミー・ジャワは基本的に汁麺(クア)なのだそうです。
一般的に汁麺はミー・クア/Mie Kuahと呼ばれ、インドネシア各地(時に近隣諸国でも)みかけますが、
そのミー・クアとミー・ジャワは同じものなのだそうです。
なにがどうジャワなのか?と思っていたのですが、ジャワの素材を使うから、なのだとか。
ジャワの素材とは?シャロット、ニンニク、クミリ(キャンドルナッツ)そして胡椒、らしいです。
写真のミー・ジャワはビーフンと中華麺半々になったもの。
キャベツなどの野菜が入って、ちょっとチャンポンみたいな感じでもあります。
ミー・ジャワの特徴は、アヒルの卵と裂いた地鶏の肉を使い、竃の炭火で一杯ずつ調理すること、なのだとか。
ミー・ジャワ店 Jogjakarta_Central Java, 2017 |
何杯かまとめてオーダーされても、一杯ずつ作るのだそうです。
どうりで。
先日の旅行で行ったジョグジャカルタのお店は、屋台のような調理台がいくつも並んでいたんです。
ミー・ジャワ店 Jogjakarta_Central Java, 2017 |
各調理台に、麺と卵と野菜、そして地鶏が吊るされていました。
ミー・ジャワ店 Jogjakarta_Central Java, 2017 |
ミー・ジャワは基本的に汁麺ではありますが、もちろんゴレンもあります。
インドネシア料理のミー・ゴレン。いわゆる一般的に知られている、あのミー・ゴレン。
は、このミー・ジャワのミー・ゴレンだとだと思います。
(一般的に知られているミー・ゴレンがどんなだったか思い出しながら……)
ケチャップ・マニスやオイスターソースで味付けがされています。
ミー・ゴレン Jakarta, 2015 |
これは、ジャカルタのどこかのホテルの朝食で出てきたミーゴレン。
ちなみに、ミー・ゴレンは「おかず」枠だったりもします。
インドネシア各地で、ごはんにいくつかのおかずを選んで乗せてもらうタイプの食堂に行くと、
そのおかずラインナップに、必ずと言っていいほどミー・ゴレンが入っています。
おかず扱いのミー・ゴレン Wakatobi_South East Sulawesi, 2015 |
炭水化物×炭水化物。
そして、もうひとつ。先日の旅行で食べた、中部ジャワのご当地麺。
ミー・オンクロック Wonosobo_Central Java, 2017 |
ウォノソボという土地の、ミー・オンクロック。あんかけ麺です。
タピオカ粉を使ってとろみを出したあんかけは椰子砂糖や干しエビ、ピーナッツが入っています。
このあんかけの下に、麺と野菜。
ミー・オンクロック Wonosobo_Central Java, 2017 |
ウォノソボは標高が高くて野菜の産地なのですが、特に美味しいキャベツとニラが採れる土地。
そんなウォノソボの麺には当然、キャベツとニラ。なのです。
ミー・オンクロック Wonosobo_Central Java, 2017 |
麺と野菜を竹製のザルに入れて、スープが煮立っている鍋でさっと湯がき、あんかけをかける。
この、竹製のザルが「オンクロック」なのだそうです。
ミー・オンクロック Wonosobo_Central Java, 2017 |
立てかけられているのが、オンクロック。
ミー・コチョックといい、ネーミングは至って安易なものなのです。
中部ジャワの料理というのはとかく甘めで、このミー・オンクロックも椰子砂糖を使っていたりするのですが、
干しエビの旨味の加わって、全く嫌みのない感じ。
そこに、潰したチャベ・ラウィットを加えると、締まりが出てさらに美味しい。
唐辛子 Wonosobo_Central Java, 2017 |
器の中で直接潰してしまうの、豪快ですよね。
このミー・オンクロック、ウォノソボまで食べに行った甲斐ありました。
他ではあまり出会わないタイプの味わいで、熱々のあんかけが涼しい気候にぴったり。
ミー・オンクロックのインスタント麺まで売られていて、思わず買ってしまいました。
インスタント麺と言えば、もうそれだけで別途一本記事が書けそうなくらい、
インドネシアの人々の暮らしとは切っても切れないほど浸透しているものなのですが、
…そうですね、詳しくは別途また書くことにして、ここでは一つだけ。
最近知った、ミー・インターネット。
ミー・インターネット Jakarta, 2017 |
インスタントの汁麺なのですが、なにがインターネットなのだろう?と。
INdomie+TElur+koRNETでインターネット。
インドミーはインスタント麺の代名詞となっている袋麺の名称。テルールは玉子、コルネットはコンビーフ。
この3つを組み合わせのことを言っていたのです。
写真のは、更にチーズトッピング。非常にジャンキーな味ながら、ちょっとクセになります。
ミー・アヤム Bandung_West Java, 2017 |
ということで、駆け足の麺(第一弾ということにしておきます)。
この他にも、例えば中華料理店に行けば、ワンタン麺や揚げ焼きそばなどもありますし、
ご当地麺もきっともっと色々ありそうなので、この先も見つけたら食べていきたいなと思います。
そして、米麺やビーフンなどのその他の麺についても、これまた追々。
なんせ、大風呂敷案件ですからね、麺は。広くて、深いのが麺の世界なのでしょう。
麺食いを自任するわたしですので、この先も頑張って食べてまいります(笑)。