スープ②/Soto, Sop, Coto

ソト・クドゥス Magelang_Central Java, 2017

中部ジャワのスープ自慢をした一つ前の記事ですが、インドネシアのスープについてもうちょっと詳しく。

まあ、これまで食べた「美味しい」自慢と言えばそれまでですが。

でも、その前に。まず、インドネシアのスープの名称について。
ソト/Soto、ソップ/Sop(時にスップ/Sup)、チョト/Coto、クア/Kuah、その他。
汁物を表す言い方は幾とおりかあるんですね。
一番よく使われるのはソトかもしれません。ソト・アヤムなどはインドネシアごはんとしてはメジャー級。

そもそものソトの由来は、中国だと言われています。
オランダ植民地時代の17世紀頃に、
中部ジャワのスマラン辺りの中国からの移民たちの間で食べられていた料理に「Caudo」というものがあり、
そこから派生して、広く一般にソト、中部ジャワ北岸の一部地域ではタウト又はサウト、
そして南スラウェシのマカッサルでチョト、と呼ばれるようになったという説があります。
残念ながら、そのCaudoがどのような料理なのかが分からないのですが、
ソトによくビーフンや春雨などが使われることを思うと、華人由来というのは腑に落ちます。

また、ターメリックを使うソトがあることからインドの影響もある、という説もありますが、
これに関しては、直接インドの影響というよりは、インド由来のターメリックの使用がインドネシアに定着して、
それがソトの調理の中でも使われるようになった、という程度ではないかなと思います。
このターメリックに限らず、ソトは定着する過程で現地の材料を取り込んでいき、
キャンドルナッツ、レモングラス、コブミカンやサラムの葉などを多用します。

ソト・アヤム Bandung_West Java, 2016

では、ソトとソップはどう違うのか。
よく目にする疑問であり、わたしもしょっちゅう人に訊いていますが、なかなか答えが出ません(笑)。

中国に由来するソトに対し、ソップは西洋由来(スープ)のものを指す、という説。
スープが濃厚でスパイスを多用するのがソト、あっさり澄んだスープがソップ、という説。
またはその逆。
具を先に入れておいて汁を後から注ぐのがソト、一緒に煮込んでいるのがソップ、という説。
いずれも「そうかも」と思える一方で、どうにも「例外」が出てきてしまう。
なので、最近は「そう呼ばれているからソト/ソップなんだ」というところに落ち着き(諦め)ました。

ちなみに、クアに関してはどうなのか。
これはソトやソップと違い、メインは具なのだと思います。汁が多めではあるのですが。
例えば、ミー・クア/Mie Kuahは、メインはミー(麺)の汁麺のことです。
とはいえ、スープ的に出されるクアもあるので、今回は一応含むことにします。

ということで、まずは、定番中の定番、ソト・アヤム/Soto Ayamから。
アヤム=鶏、なので、要はチキンスープ。

ソト・アヤム Jakarta, 2016

鶏出汁のスープに、ゆで玉子、野菜(キャベツ、トマト、モヤシなど)に、春雨をいれたものがベーシック。
ターメリックを使った黄色っぽいスープのものが多いですが、必須ではありません。
写真のは、コヤ/Koyaと呼ばれる、エビのクルプック(揚げ煎)を粉にしたものがのっています。
このコヤをトッピングに使うのは、東ジャワのラモンガン風ソト・アヤムの特徴なのだそう。
旨味増し増しになります、このコヤ。

ソト・アヤム Jakarta, 2016

これは、ご飯に最初からかけてあるタイプ。
汁かけご飯が「お行儀悪い」とされないの、とても嬉しいです(笑)。

中部ジャワのソトの中でも、ソト・ガディン、ソト・カディピロ、そしてソト・クドゥスはソト・アヤムです。
(クドゥスに関しては、水牛の場合もありますが)
ソト・アヤムはインドネシア各地で、時にその名を変えつつも、広く親しまれているスープ。
去年訪れた、フローレス島の山の中、3時間ほどのトレッキングでたどり着く電気も通ってない村の晩ご飯も、
ソト・アヤムでした(さっきまでそこらへんを歩いてた鶏で作ってくれました)。

南カリマンタンのバンジャルマシンの名物、ソト・バンジャル/Soto Banjarも、ソト・アヤムの流れ。

ソップ・バンジャル Banjarmasin_South Kalimantan, 2016

裂いた鶏、春雨、ゆで玉子に野菜、そしてターメリックは使わない澄んだスープ。
ソト・バンジャルはスパイス使いが特徴で、ナツメグや丁字、時に八角やシナモンなども使って風味を出します。

ちなみに、ソト・バンジャルはライスケーキと一緒に食べるのが決まり。
それがご飯になったら、それはソト・バンジャルではなくてソップ・バンジャルなのだそうです。
(なので、上の写真はソップ・バンジャルなのです)

鶏肉は宗教的タブーにも触れず(例外はありますが)、安価で、そして手に入りやすいということから、
インドネシア各地の肉料理における鶏度は必然、高くなるわけですが、
次いでよく使われるのは、やはり牛肉。

わたしの住むバンドンの名物、ソト・バンドン/Soto Bandungは牛ベースのスープです。

ソト・バンドン Bandung_West Java, 2016

使う牛肉はスジの混ざったソト用とされる肉で、赤身とスジ部分それぞれの旨味がスープに出て美味しいのです。
レモングラス、サラムの葉、コブミカンの葉などを使い、臭みを抑えつつ、
(ソト・バンドンに限らず、ジャワのソトはこのハーブ使いが基本になります)
仕上げに更にネギや葉セロリを足すことで、肉っぽさとのバランスをとります。
トッピングの大豆と、具の大根がソト・バンドンの特徴。
大根を使った料理というのは、インドネシアでもだいぶ珍しく、
周囲を火山に囲まれた高地で、野菜豊富なバンドンという立地を反映しているのでしょうね。

そんなバンドンでソト・アヤムを頼むと、

ソト・アヤム Bandung_West Java, 2017

時々、かなりソト・バンドンに引っ張られたものが出てきてびっくりします(笑)。

同じ西ジャワ地域からもう一つ、牛ベースのスープ。

ソト・ミー Jakarta, 2017

コクの牛スジのスープに麺が入ったスープ、ソト・ミー/Soto Mie。
麺はあくまで「具」扱いなので、汁麺のミー・クアとはまた別物になります。

ソト・ミー Jakarta, 2017

ジャカルタ及びボゴール辺りで有名なソト・ミーですが、シンガポールやマレーシアにもあるんですね。
知りませんでした。

また、牛テール使用のソップ・ブントゥット/Sop Buntutも、牛の旨味たっぷりのボリュームあるスープ。

ソップ・ブントゥット Bandung_West Java, 2016

ホロホロのお肉、トマトやニンジンなど野菜も入って食べ応えがあります。

そしてそして、牛スープと言ったら外せないのが、東ジャワ名物のこのラヲン/Rawon。

ラヲン Jakarta, 2015

クルアッを使った黒いスープで、その色にぎょっとする人もいますが、
見た目に反し、至って食べやすい、と言うか非常に美味しい、私的汁物ランキングのトップ3に入る料理です。
生のモヤシや、塩玉子をトッピングにして食べるのがお約束。

ラヲン屋台 Surabaya_East Java, 2016

本場スラバヤの人気店ではこの豪快さで、沢山のお客さんで賑わう店内をラヲン一品で回しています。

同じく東ジャワ、マドゥラ島のソト・スルン/Soto Sulungも、牛肉(と内蔵)を使ったスープ。

ソト・スルン Bandung_West Java, 2016

と言っても、写真はバンドンのお店で食べたものなのですが。
ターメリックを使っているので、黄色っぽいスープになります。

牛の内蔵を使ったスープとなると、これまた私的汁物ランキングトップ3に入るのが、こちら。

チョト・マカッサル Balikpapan_East Kalimantan, 2016

南スラウェシのマカッサル名物、チョト・マカッサル/Coto Makassar。
牛の臓物を臭みがなくなるまで丁寧に茹で、ピーナッツを使ったスープに仕上げたもの。
ソト・クドゥス同様、小さなお碗で出て来ます。
そこに、ライスケーキを入れたり、別々に食べたり。
以前、マカッサルに同行した日本人のお客さんでこのチョト・マカッサルを一度に3杯食べた方がいました。
気持は分かる、というくらいに美味しいのです。

マカッサルからの移民が多い、東カリマンタンのバリクパパンにも美味しいチョト屋がいくつもあります。
写真は、そのうちの一つで食べた時のもの。

南スラウェシは牛肉を上手く使う土地らしく、この他にも、牛リブを使ったスープなどもあります。

もう一つ、今度はスマトラ島から、牛ベースのスープを。

ソト・パダン Bukittinggi_West Sumatra, 2016

これだと、ピンクのクルプックばかりに目がいきますが、
西スマトラのソト・パダン/Soto Padangです(ピンクのクルプックもソト・パダンの主要構成員です)。
ジャーキー状の牛肉と、プルケデル/Perkedel(コロッケ)が入っているのが特徴。

パダンは、インドネシア有数のごはんどころ。パダン料理屋は世界中にあると言われるほどです。
土着の素材、インドの影響を受けたと言われる多彩なスパイス使い、じっくりかける手間と時間。
美味しいごはんが生まれるパダンとその周辺地域は、覚悟して行かないと確実に体重が増える危険地帯です。

さて、インドネシアでのメジャー度からいったら、鶏、牛と来たら次はヤギなのでしょうが、
なぜかわたし、ヤギの汁物を食べた記録がほとんどありません。
なので、ヤギはいつか「ヤギ」としてご紹介します。

で、豚。

たまに「インドネシアはイスラム国家」と書かれているのを目にすることもありますが、間違いです。
インドネシアはイスラムを国教としている訳ではなく、
カトリック、プロテスタント、ヒンドゥー、仏教、儒教が信仰として認められています。
つまり、豚だって、食べます。
バリといえば、バビグリン(豚の丸焼き)ですし!

とはいえ、豚のスープとなると、なかなかバリエーションが思いつかないのですが、
なぜか豚×金時豆、のスープはよく見かけます。

豚と金時豆のスープ Kupang_East Nusa Tenggara, 2016

写真は東ヌサトゥンガラ州クパンの、豚スモークのお店で食べたものですが、
北スラウェシのマナドでスップ・ブレネボン/Sup Brenebonと呼ばれる金時豆のスープも、豚。
豚の肋や足などの骨で出汁をとる、お祝い事には欠かせないスープなのだそうです。

もうひとつ、豚スープ。
バクッ・サユール・アシン/Bakut Sayur Asin。

バクッ・サユール・アシン Bandung_West Java, 2015

バクッはバクテー(Bak kut teh)のバクと同じく、豚の骨(リブ)を意味します。
サユール・アシンはインドネシア語で酸っぱい野菜。
Suan Cai(酸菜)と呼ばれる、高菜漬けにも似た葉野菜の漬け物のことです。
酸菜の酸味が豚の旨味と好バランスなスープです。

そして、魚のスープ。

大好きな、イカン・クア・アサム/Ikan Kuah Asamといわれる、酸っぱい海魚のスープです。

イカン・クア・アサム Rote_East Nusa Tenggara, 2016

魚の種類はそれぞれですが、比較的あちこちで食べられるのがこの酸っぱいスープではないかと思います。
写真は東ヌサトゥンガラのものですが、バリでも海魚の酸味スープの美味しいお店がありますし、
南東スラウェシのパレンデといわれるスープも、酸っぱい魚のスープです。
酸味の素は、トマト、ライム、タマリンド、そしてビリンビ/ナガバノゴレンシと呼ばれるフルーツなど。
魚を〆てからの処理の違いであったり、保冷技術の違いであったりもあるのかもしれませんが、
インドネシアの海魚の調理法は、生臭さをどう消すか、というのがひとつテーマに思えることがあります。
この酸っぱいスープも、酸味の他、クマンギやネギなどのハーブを使ったり、
調理前にターメリックをまぶして下処理をしたりします。

淡水魚からも、ひとつ。
ピンダン・パティン/Pindang Patinと呼ばれる、南スマトラの料理です。

ピンダン・パティン Palembang_South Sumatra, 2017

パティン(カイヤン)という淡水魚を、酸っぱ辛いスープで煮たもの。
酸味には、タマリンド、トマト、そしてパイナップルが使われ、唐辛子の辛さも効いた汗の吹き出るスープ。
ピンダンと呼ばれる酸っぱいスープは、ジャワを含め各地にもあり、素材は海魚であったり色々ですが、
南スマトラの内陸の街パレンバンでは、淡水魚を使うのが一般的なようです。
(あ、でも、アヒル肉のもありました)

最後に、酸っぱいつながりで、サユール・アサム/Sayur Asam。
サユールは野菜、アサムは酸味。そのまま「酸っぱい野菜」と呼ばれているスープです。

サユール・アサム Magelang_Central Java, 2015

特にジャワ島各地で食べられている、この甘酸っぱいスープ。
野菜は、長豆、ハヤトウリ、トウモロコシ、ピーナッツ、ムリンジョ/Melinjoと呼ばれるグネモンノキの実など。
酸味はタマリンドを使い、椰子砂糖少々で甘みを出します。

このサユール・アサムと関係があるのか分からないのですが、
南カリマンタンのバンジャルマシンの食堂で「野菜いる?」ときかれて「いる」と答えたところ、
刻んだ葉野菜が入った澄んだスープが出てきたりました。

ソト・アヤム Bandung_West Java, 2017

などと、徒然に書いてきましたが、
インドネシア各地のご当地スープ、まだまだ、まだまだあるのです。
挙げていったらキリがないのですが、食べに行かなくちゃリストが長々あるのも幸せです。

地方に行くとどうしても、ここのあれを食べておかなくちゃ、というのが先にたち、
例えば、スラバヤに行ってラヲンを食べないとやり残した感がある、とか、
マカッサルに来たのにチョトを食べずに帰るなんてこと絶対避けたい、とか、
そういう「あの味をもう一度」も大事なのですが、
新しい味を試す「インドネシア、スープの旅」って、ちょっとやってみたいです。




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