チョト・マカッサル/Coto Makassar

チョト Makassar_South Sulawesi, 2017

バンガイ諸島へ向かう途中で、南スラウェシのマカッサル(ウジュンパンダン)に立ち寄りました。
数時間の滞在ではあったのですが、マカッサルで時間があるとなったらならば、
なにをおいてもまずは、チョト/Coto を食べに行くのがわたしの決まりです。優先順位最上位。

以前、インドネシアのスープについて書いた際にもさっとご紹介したチョト。
牛の臓物を使った、マカッサル名物のスープです。

臓物をカットする Makassar_South Sulawesi, 2017

臓物というと苦手なひともいると思いますが、
このチョトで使うあらゆる部位の内臓は、丁寧に下処理をされているので臭みを感じることもほとんどなく、
むしろ、色んな食感を楽しめるという意味で、お肉だけで食べるのはもったいない気がするほどです。

コロン・ブッタ/Korong Buttaと呼ばれる素焼きの鍋で調理するのが伝統的なチョトの流儀なのだそう。
滋味深くも複雑なその味を生み出すのは、土地の言葉でAmpah patang puloと言われる40種のスパイス。
40種とは。
バワン・メラ、ニンニク、生姜、ピーナッツ、クミリ、ガランガル、コリアンダーシード、クミンシード、
シナモン、丁字、ナツメグ、メース、胡椒、砂糖、塩、赤唐辛子、青唐辛子、タマリンド、
レモングラス、コブミカンの葉、サラムの葉、ターメリックの葉、ネギ、セロリの葉、
そして、内臓を処理するのに石灰。とにかく「たくさん」なのでしょう。

このチョトは、なかなか自分で作ってみるのは大変な気がしますね。

で、きれいに下処理をして臭みを抜いた内臓と、若いパパイヤの実を使って柔らかくした牛肉を、
これらのスパイスと共にしっかりじっくり煮込んだ後に、小さく刻んでいきます。

臓物をカットする Makassar_South Sulawesi, 2017

オーダーする際に、例えばどこの部位は抜いて欲しいとか、肉だけにして欲しい、などの注文も可能です。
(わたしはいつも、全部混ぜにしてもらうのですが…笑)

そして、チョトと言えば、小さなお碗。

チョト Makassar_South Sulawesi, 2017

例えばどこか別の街で、レストランのメニューにあったからとチョトをオーダーしたとして、
そこで、大きなボウルになみなみと入ったものを持って来られたら、わたしはきっとがっかりしてしまいます。
チョトは「こんなに美味しいのにこんなに小さいお碗で、足りないかも…」と思ってしまうくらいがいいのです。

このお碗に、旨味ぎゅうぎゅうのスープを注いで、ネギの葉と揚げたバワン・メラと散らして、いただきます。

チョト Makassar_South Sulawesi, 2017

牛肉と内臓の旨味もちろんのこと、ピーナッツの風味がまた素晴らしく、食欲をそそります。
好みでライムを絞ったり、タウチョのサンバルを加えて味を調整して、もしくは途中で味変して楽しみます。

そして、このチョトと一緒に食べるのがクトゥパッ/Ketupatとブラス/Burasです。

クトゥパッ Makassar_South Sulawesi, 2017

クトゥパッ(マカッサルではカトゥパ/Katupa)は椰子の葉を編んだ中にお米を詰めて茹でたライスケーキ。
インドネシアだけでなく、フィリピンやマレーシアなどでも見られる調理法です。

この椰子の葉の真ん中に切れ込みがあるので、そこをぱかっと割って、ごはんを食べます。

クトゥパッ Makassar_South Sulawesi, 2017

ごはんを食べながらチョトを食べてもいいですし、チョトの中にごはんを入れてしまってもいい。
お好みの食べ方でどうぞ。

そしてもう一つはブラス。

ブラス Makassar_South Sulawesi, 2017

ブラスは、ココナッツライスです。
ココナッツミルクを使って炊いたごはんを、バナナの葉ですこし平たく包んで再び蒸したもの。

ブラス Makassar_South Sulawesi, 2017

旨味ライスケーキですね。こちらを齧りながら、チョトを食べるのもまたよいものです。

こうして、ごはんを食べつつ、お碗の中の具を楽しみ、スープを味わい、
ああどうしようなくなっちゃう、もっとたくさん食べたいのに、おかわりしようかな、とか思い始め、
それでも、最後までスープを飲み切る頃には、なんとなくちょうどいい腹具合になっています。
(とはいえ、3杯おかわりした日本からのお客さんもいましたけどね…笑)

さて、このチョトの始まり。

16世紀前半にはもうあったのではないかという説もあるようですが、実際にはまだよく分かっていない様子です。
サンバルにタウチョを使うあたり中国の影響が見えるとされ、そもそもインドネシアのソト等の汁物が、
17世紀に盛んだった中国からの移民とその影響から生まれたと言われていますので、
なので、チョトもその頃に生まれたのではないかなという気がします。
ただ、その当時でここまで複雑なスパイス使いをしていたのかどうか。
なんとなく、始めはもっとシンプルで、徐々に色んな文化を取り入れつつ、複雑化して行ったように思えたり。
とは言え、西洋との交易品であったナツメグや丁字などを使う辺りは、
古くから航海交易の中継地として栄えたマカッサルという土地柄を反映しているようで興味深いです。

チョト Makassar_South Sulawesi, 2017

マカッサルはチョトに限らず、色んな美味しいものがある土地なのです。
沿岸の街ですので、当然シーフードは美味しいですし、
牛肉使いの上手い民族なのか、牛ベースのスープはこのチョト以外にもまだあるのです。
また、交易地らしく華人たちの食文化もしっかり根付いているようです。
(マカッサルほど道ばたに豆乳売りのスタンドをみかける土地はなかなかない気がします)
なので、本当はもっと色々食べ歩きたいのです。
けれども何故か、いつもマカッサル滞在はごく短時間。
よって「まずはチョトを食べてから」という思考回路である以上、なかなかチョト以外にたどり着けません。
いつか、きちんと時間を割いて、マカッサル及び周辺の南スラウェシ巡りをしてみたいと思います。
(その時もきっと、まずはチョトを食べてから、となるだろうと自信をもって言えますが)


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